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S先生の質問 個別指導に臨むに当たり、どのようなことに気をつければよろしいのでしょうか? また、監査に移行されないようにするには、どのような事に気をつければよろしいのでしょうか? どのレベルから監査になるのでしょうか? |
開業保険医の個別指導対策
目次
はじめに
1.指導から保険医停止処分への経緯
2.個別指導と人権
3.保険医の心構え
4.個別指導の選定基準
1)高点数保険医療機関
2)保険者や患者さんの情報
3)立入検査、検察又は警察、会計検査院などの情報
5.個別指導の形式
1)個別指導出席者
2)立会人
3)指導医療官の態度
4)指導・監査の拒否
5)押印
6)録音
6.個別指導における指導医療官の指摘事項
1)カルテの記載不備
2)うっかりミス
3)故意の不正請求
7.個別指導後の結果
1)指導直後の講評
2)結果通知書
3)改善報告書
4)自主返還
5)個別指導の中止
6)保険医停止処分の諮問
7)聴聞(ちょうもん)
8)取消処分の通知と仮処分の申請
9)取消処分期間の短縮
8.今後の課題
1)個別指導対象者の選択
2)立会人の位置と発言の自由
3)立会人選択の自由
おわりに
引用文献
はじめに
開業保険医にとって、個別指導は、その対応を誤ると致命的な損害を受けることから、最大の関心事の1つです。しかし、開業保険医は、個別指導の通知を受け取った際に、その情報があまりにも少ないことに驚きます。開業保険医の個別指導システムは、病院のそれとは異なるところがあり、その異なるところの情報が少ないのです。その情報が少ない理由は、これまで特定の開業保険医が繰り返し個別指導を受けることが少なく、さらに、個別指導を受けた開業保険医がその経験をほとんど口外しないからです。そのため、それらの情報がほとんど蓄積されていないのです。その結果、個別指導に選定された開業保険医は「個別指導ではどの様なことが行われるのか」「個別指導にはどのように対応すると良いのか」など、思い悩むことになります。
1995年、高点数医療機関を個別指導の対象とする選定基準が執行されました。その結果、1件当たりの平均点数を下げることができない保険医は、個別指導を繰り返し受けることになりました。繰り返し個別指導を受けた開業保険医の経験から、少しずつ個別指導に関する情報が蓄積されてきました。
本稿は、度重なる個別指導を経験した開業保険医から得た情報に基づき「医科保険医のための審査、指導、監査対策(注1)」を参考にして執筆されました。本稿をお読みになった開業保険医は、個別指導に関する情報を得ることにより、必ずや個別指導を無事乗り切るために必要な自信と勇気を得ることができることでしょう。
注1:「医科 保険医のための審査、指導、監査対策(保険医団体連合会編)」は、全国保険医団体連合会ならびに全国の保険医会・保険医協会に問い合わせることにより購入できます。
1.指導から保険医停止処分への経緯
保険医停止処分は、医師・歯科医師の重犯罪など(注2)を除いて、突然通知されることはありません。法律に基づいて、以下のステップに従い段階的に指導が行われ、選定委員会(注3)あるいは地方厚生局(注4)から評価された上で処分が決定します。このステップを理解することにより、保険医の立場がどの段階にあり、今後どのような経過を取るかを把握することができます。
注2:新聞等に報道される保険医停止処分数は、医師・歯科医師の重犯罪例が含まれております。そのため、診療報酬不正請求により保険医停止処分を受けた医療機関は、それよりも少ないと言えます。
注3:選定委員会は、地方厚生局に設置され、個別指導対象保険医療機関を決定します。その構成委員は、地方厚生局、都道府県の国保・高齢者医療の各主管課長、指導医療官、技術吏員、事務官、吏員の他、非常勤の医師、歯科医師、薬剤師、看護師等で構成されております。
注4:地方厚生局とは、厚生労働省の地方支分部局です。2001年(平成13年)の中央省庁再編により、従来から設置されていた地方医務局と地区麻薬取締官事務所を統合した上で、本省の指導監査や衛生・福祉分野の許認可事務等の一部を移管し発足しました。
注5:監査とは、保険医停止処分を前提とした証拠集めです。強制力があり、拒否できません。監査の措置は、「取消処分」「戒告」「注意」の3段階ありますが、監査を受けた医療機関は、保険医停止処分を受けることが多いと考えて下さい。監査の通知を受け取った際には、信頼できる方あるいは弁護士に相談し、個人的に対応しないことをお奨めします。
2.個別指導と人権
個別指導は、医療保険関係の法律に基づき、医療保険制度の円滑な運営を目的とした行政指導として行われます。一方、個別指導は、1994年に執行された行政手続き法(不当な行政運営を防ぐ法律)に則して実施されます。個別指導における保険医の人権は、この行政手続き法により守られております。そのため、開業保険医がこの法律を理解することは、とても大切です。
3.保険医の心構え
個別指導の結果が悪い場合、監査・保険医停止処分へ移行するとされております。そのため、保険医は、個別指導に強い不安を感じ「なぜ自分が選ばれたのか」として自問自答を繰り返すことがあります。しかし、保険医が選定理由に疑念を抱き選定回避を願って行動することは、百害あって一利無しです。保険医が個別指導を無事に乗り切るためには、個別指導の法律上のしくみを理解し、真摯に個別指導に向き合うことが大切です。
4.個別指導の選定基準
個別指導の選定基準は、おもに以下の3つに区分できます。
1)高点数保険医療機関
1件当たりの平均点数が高いことから、個別指導に選定されることがあります。具体的には、上位8%の保険医療機関が集団的個別指導に選定され、指導後に平均点数を下げなかった上位4%の保険医療機関が個別指導に選定されます。この基準は「平均点数を下げないと個別指導に当てるよ」とした行政機関の脅迫行為です。この脅迫行為は、1件当たりの平均点数を下げる効果があります。
個別指導を受ける保険医療機関は、ほとんどがこの基準により選定されております。それらの保険医療機関は、不適切な医療行為あるいは不正請求を行っているわけではありません。むしろ、保険診療に熱心に取り組んでいる保険医療機関が繰り返し個別指導を受けております。そのため、診療報酬請求に問題がある保険医療機関が個別指導に選定されることは少なくなり、その結果、監査に至る保険医療機関が少なくなっているそうです。
この選定基準により個別指導に選定されることは、不名誉なことではありません。
2)保険者や患者さんの情報
保険者や患者さんの情報により、個別指導に選定されることがあります。この場合、指導医療官は、保険医に選定理由を示す際に、情報源を実名で明らかにする必要があります。情報源が匿名の場合、選定自体が無効となります。実名情報源の明示は困難な場合があることから、実際には、この基準により個別指導に選定されることは少ないと考えられます。
3)立入検査、検察又は警察、会計検査院などの情報
立入検査、検察又は警察、会計検査院などの情報により、不適切な医療行為あるいは故意に不正請求を行っていることが疑られ、個別指導に選定されることがあります。本来、個別指導は、この基準により選定されます。しかし、この基準により個別指導に選定される医療機関は、少なくなってきております。
5.個別指導の形式
個別指導は、法律に基づき形式的に実施されます。保険医は、その形式を理解することにより、個別指導に対する恐怖感を解消することができます。その形式のうちとくに重要な項目について解説します。
1)個別指導出席者
個別指導には、指導医療官と事務官が出席します。その他に医師会・歯科医師会の立会人が出席します。指導医療官は、保険医が持参したカルテや資料を点検し、保険医に対して質問あるいは不備を指摘します。事務官は、指導医療官の補助あるいは個別指導の記録を取ります。
保険医が持参するカルテや資料は、事前に指定されることから、質問や指摘内容をある程度予測することが可能です。そのため、対象となったカルテや資料を事前にチェックしておく必要があります。そうすることにより、保険医は、個別指導の場で焦ることなく、指導医療官の質問や指摘に適切に対応することができるようになります。
2)立会人
立会人は、厚生局から医師会・歯科医師会へ要請して派遣されるとされておりますが、厚生局が立会人を依頼することはあり得ません。実際に、立会人には医師会・歯科医師会から日当が支給されており、行政機関の不当な強要を防ぐ目的で設置されております。しかし、一部の立会人は、行政機関の補助者と勘違いしていることがあり、保険医にとって不利になる態度をとる場合があります。一方、医師会・歯科医師会は、個別指導の受講経験が無い人を立会人に選ぶ場合があります。その場合、未経験者が立会人の役割を果たすことになり、その立会人は役割を全うすることができません。この様な場合は、立会人の言動にとらわれないことが良い結果を生みます。
かつて、指導医療官と立会人が個別指導の場において理不尽な態度を示したことから、地方厚生局に事前に申し出ることにより、保険医が依頼した弁護士を個別指導に帯同することが可能になりました。ただし、個別指導の場における弁護士の発言は、認められておりません。
なお、ほとんどの立会人は「中立・公平の立場で立ち会う」と考えております。しかし、それは間違いです。指導医療官と保険医との間は、対立しているわけではなく、指導する人と指導を受ける人の関係です。そのため、その間に、中立・公平という立場はなく、その業務も存在しません。
立会人の座る位置は、保険医にとって重要です。第1案は、開業保険医の個別指導にて実際に行われている位置関係です。一般的に、立会人は、指導医療官側に座ることを希望します。その理由は、立会人といえども同じ保険医であり、指導を受ける側に位置することを嫌うからです。第2案は、保険医にとってありがたい位置関係です。保険医は、立会人のアドバイスを受け相談することが可能になります。立会人には、医師会・歯科医師会から日当が支給されていることから、第2案の位置に座ってほしいものです。しかし、保険医と立会人がよほど親しい間柄でないかぎり、第2案は実現しません。
一方、保険医が医師会・歯科医師会に入会していない場合でも、本人が要請することにより、地域によっては、医師会・歯科医師会が立会人を派遣することがあります。その場合、立会人を同席してもらうかどうかは、任意ということになります。なお、信頼できる友人を立会人として個別指導の場に出席してもらうことは、認められておりません。
第1案 第2案
3)指導医療官の態度
行政手続き法において、指導は懇切丁寧に行うこととされております。指導医療官の強圧的な態度は法律違反になり、指導医療官は罰せられます。
4)指導・監査の拒否
保険医が指導を拒否した場合は、監査に移行します。監査を拒否した場合は、保険医停止処分を受けます。指導・監査に際して、保険医は、拒否することなく積極的に協力し、無事乗り切るために努力することが大切です。
5)押印
押印の目的が明確な場合は問題ありませんが、保険医の不備を認めるような押印は、慎重に検討して下さい。どうしても納得できない場合は「検討させてください」として、一時押印に応じない方が賢明です。もし、個別指導の場において、不本意な文章に押印を強要され従った場合、その文章をコピーして、個別指導後速やかに弁護士に相談して下さい。強要された押印は、行政手続き法違反として押印を取り消すことが可能な場合があります。
6)録音
録音は、個別指導後に送付される結果通知書(後述)の内容が、個別指導にて指摘された内容と異なる場合、事実証明の証拠として活用することができます。保険医は「指導内容を正確にメモする自信がないので録音させて下さい」あるいは「一言漏らさず勉強したいので録音させて下さい」などとして、個別指導における録音を要請して下さい。録音は、録音機を隠して行ってはならず、指導医療官から同意を得た上で、目の届くところで行います(注6)。
注6:隠し撮りした録音は、裁判において証拠として採用されません。
6.個別指導における指導医療官の指摘事項
個別指導に際して、指導医療官は、保険医のカルテなどを審査して、以下の事項を指摘します。保険医は、指導医療官の指摘事項を的確に理解し、それぞれに応じて適切に対応することは、個別指導を無事乗りきる上でとても大切です。そのため、指導医療官が指摘している内容が、以下の項目のどれに該当するかを判断することは極めて重要です。
1)カルテの記載不備
保険医は、指導医療官から、数多くのカルテ記載不備を指摘されます。指摘数が多い原因は、保険医が不適切な医療行為あるいは不正請求を行っているからではなく、定められたカルテ記載方法(注7)が複雑すぎるからです。しかし、保険医が、複雑な医療保険規則に対する不満を表明しても何ら意味がなく、指導医療官の指摘事項を積極的に聴講してメモすることが大切です。そのメモは、再指導に至った場合に重要な情報となります。
一般的に、カルテの記載不備は、返戻の根拠にならず、実際の医療行為が適切に行われていることが診療報酬算定の根拠となります。ただし、指導医療官は「カルテに記載されてなければ医療行為を行っていない取り扱いになる」と主張します。そのようなことはなく、非の打ち所のないカルテ記載が診療報酬を算定でき、その他は算定できないということはあり得ません。
注7:カルテ記載方法を勉強するには「カルテ記載を中心とした指導対策テキスト(保険医団体連合会編)」などが最適です。
2)うっかりミス
診療報酬請求の故意ではないうっかりミスは、重大な問題を引き起こしません。返戻に応じても、差しつかえないと思います。保険医は、「今後このようなミスが生じないように注意します」として謝罪し、指摘していただいたことに関して指導医療官に感謝します。
3)故意の不正請求
故意に行った不正請求は、監査・保険医停止処分の根拠になる可能性があります。かつて、保険医が、指導医療官あるいは立会人から誘導されて、不本意のうちに故意の不正請求を認め、保険医停止処分の根拠にされたことがあります。しかし、保険医が故意の不正請求を認めても、指導医療官の悪質な誘導による場合は、処分を取り消すことが可能です。
例1:指導医療官から普通抜歯を難抜歯で請求したのではと指摘され、保険医が「高額診療報酬を得るために難抜歯とウソの請求を行った」と回答すればアウトです。通常そのようなことはあり得ないので「これは難抜歯です」と主張して問題ありません。
例2:膿疱摘出手術がレントゲン写真にて所定の大きさが確認できなくても、実際に請求した大きさの膿疱が存在したと主張して問題ありません。なぜなら、手術時に確認した大きさが優先して認められます。
例3:顎運動関連検査の結果に不適切な数値が記載され、あるいは、指導医療官の質問(咬合器の種類あるいはフェイスボウの意義など)に対して不適切に回答した場合、不正請求とみなされる可能性があります。なお、顎運動関連検査の算定率は、地域によって差があり、地方厚生局はそのことを把握しております。地方厚生局は地域差を無くすることを重要視していることから、算定が多い地域の歯科保険医療機関は、注意する必要があります。
例4:指導医療官の「このレントゲン写真は、肝心なところが確認できませんが、誰が撮影しているのですか」との質問に「看護師が撮影しております」と回答するとアウトです。一般的に指摘されやすい事項は、事前に把握しておく必要があります。
7.個別指導後の結果
個別指導後の結果は、指摘された内容と保険医の対応に基づいて、以下の処置が行われます。
1)指導直後の講評
個別指導が終わると、一旦休憩となります。おおよそ30分経過後、指導医療官より口頭により講評を受けます。その後、個別指導受講確認の押印を求められ、地域によっては、保険医の感想あるいは今後の改善方針を求められることがあります。
2)結果通知書
個別指導後、文章にて結果通知書が送付されます。その際、結果通知書の内容と個別指導の指摘内容との間に齟齬があるかについて確認する必要があります。かつて、指摘されていない事項が結果報告書に記載されていたことがありました。その場合、地方厚生局に問い合わせる必要があります。それにより、身に覚えのない不当な処分を回避することができます。
個別指導結果の評価は、以下の4つに区分されます。
①概ね妥当
当該個別指導は終了します。
②経過観察
半年から1年間、レセプトによる経過観察が行われます。改善が認められた場合は、個別指導が終了し、改善が認められない場合は再指導になります。
③再指導
保険医は、個別指導の結果が悪い場合、1年以内に再指導を受けることになります。そのため、再指導は監査の入口と考えられております。しかし、監査要綱の第3の3の規定、および1954年と1960年の厚生省・日医・日歯の申し合わせにより「指導を行っても改善されないものを監査する」とされ、保険医の対応次第により、再指導は監査に至るのを回避する助け舟の意義を持ちます。
再指導においては、前回の指導にて指摘された事項が改善されているかどうかが審査されます。それらが改善されていれば、監査に至ることはありません。そのため、再指導の通知を受けた医療機関は、悲観することなく、前回の指摘事項のメモを準備し、指摘事項の改善に努力することにより、監査を回避することができます。
指摘事項と改善の判定が難しい場合があるので、再指導の通知を受け取った際には、個別指導を受けた経験のある信頼できる方に相談し、個人的に対応しないことをお奨めします。
④要監査
個別指導の結果が監査要件(注8)に該当している場合、監査が行われることになります。
注8:監査要綱にて選定基準が以下のように定められております。
①診療内容に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき。
②診療報酬の請求に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき。
③度重なる個別指導によって診療内容又は診療報酬の請求に改善が見られないとき。
④正当な理由がなく個別指導を拒否したとき。
3)改善報告書
保険医は、個別指導にて指摘されたことに関して、その改善した結果又は改善する計画を文章にて提出します。改善報告書の記載内容は、重要ですので、個別指導を受けた経験のある信頼できる方に相談して記載することをお奨めします。
4)自主返還
保険医は、診療内容又は診療報酬の請求が「不当」と判断された場合、個別指導の対象期間以前(原則として1年以上)に行われた同様の請求について自主的に点検し、その返還金を求められます。かつて、歯科医師会の役員が「多額の自主返還を行うと監査に至ることはない」と助言し、保険医がその助言通りに過剰な自主返還に応じたことがありました。しかし、その保険医は、自主返還の件数と額が多いことを根拠に監査を受けることになりました。自主返還に応じるに際しては、信頼できる方に相談して慎重に検討する必要があります。身に覚えの無い自主返還に応じてはなりません。
5)個別指導の中止
指導大綱に「指導中に診療内容又は診療報酬の請求について明らかに不正又は著しい不当が疑われる場合にあっては、指導を中止して、直ちに監査を行うことができる」と記載されております。しかし、実際には、保険医が真摯に個別指導に対応している限り、そのようなことは起こり得ません。もし、突然そのような事態に陥った場合は、指導医療官の行政手続き法違反が疑われますので、なぜそのような事態に至ったかについて質問し、その質問と回答を含め事実経過を詳細にメモしておく必要があります。メモの最後に日付とご自分のサインを記載し、指導医療官のサインを求めます。裁判所は、指導医療官のサインが無くても、日付があればメモを重要な証拠として採用しますので、指導医療官のサインは不可欠ではありません。また「指導医療官はサインを拒否」とメモしておくのも良いかと思います。
6)保険医停止処分の諮問
監査後、地方厚生局が以下の事項に該当すると判断した場合、保険医療機関の指定および保険医登録の取消処分が諮問されます。
①故意に不正又は不当な診療を行ったもの。
②故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの。
③重大な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの。
④重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの。
以上のことから、取消処分に至るキーワードは、「故意」と「しばしば」と考えられます。
7)聴聞(ちょうもん)
地方厚生局が地方社会保険医療協議会に取消処分を諮問した後、行政手続き法に基づいて聴聞が行われます。聴聞とは、行政手続法により定められている行政機関の義務で、不利益処分を受ける側の意見・弁明を述べる機会です。聴聞は、取消処分予定者にとって、処分の不当性を訴え取消処分を回避する機会として大切です。聴聞の通知は、取消処分予定者に対して、処分の14日前までに送付されます。
8)取消処分の通知と仮処分の申請
聴聞後に取消処分が決定した場合、地方厚生局長は、当該の保険医療機関又は保険医に対して、措置の種類、根拠規定、その原因となる事実などについて文書により通知します。
保険医は、取消処分の通知内容に不服がある場合、裁判所に仮処分(注9)を申請することができます。裁判所が、保険医の仮処分申請を妥当と認めると、保険医は、保険医停止処分を延期した状態で訴訟を行うことができます。
注9:裁判所から判決を下されるまでには、多くの場合時間がかかります。判決が下されるまでの間に侵害行為を止めさせることが必要な場合には、裁判所に対して相手方の行為を止めさせる仮処分の申立てをする方法があります。この仮処分の申立てを行うと、裁判所は、相手方にも意見を聞いたうえで、本案訴訟での結論(判決)が出るまでの間、仮の手続として侵害行為を止めさせることができます(仮処分命令)。
9)取消処分期間の短縮
保険医療機関が取消処分を受けた場合、原則として5年間再指定を受けることができません。しかし、例外的に①過疎地等で取消処分により無医地区になる場合は、2年未満で、②不正の請求金額・件数が軽微な場合は、2年以上5年未満で再指定が認められることが1998年の厚生省保険局長より通知されております。
8.今後の課題
かつての個別指導においては、技官と医師会・歯科医師会の立会人が結託して、保険医を集団で尋問するという非常識きわまりない密室システムが横行しておりました。その結果、個別指導を受けた開業保険医が自殺するという不幸な事件が全国的に発生しました。保団連の努力により、その理不尽なシステムの多くは解消され、また、行政手続き法が施行されたことにより、個別指導は、保険医が適切に対応することにより、不幸な事件を回避することが可能となりました。しかし、個別指導の問題がすべて解消されたわけではなく、以下のような課題が存在します。
1)個別指導対象者の選択
2)立会人の位置と発言の自由
3)立会人選択の自由
おわりに
開業保険医が個別指導の通知書を受け取った際に第一に行うことは、その内容を正確に把握することです。理解できない箇所が生じた場合は、問い合わせるか、個別指導を受けたことがある信頼できる方に相談します。第二に行うことは、個別指導に関する法律を理解することです。とくに、私達に有利な法律は、重要です。
もし、あなたがご自分の診療報酬請求に「故意に」と「しばしば」というキーワードに身に覚えが無ければ、以上の対策を講ずることにより、自信を持って個別指導に臨むことができるはずです。
引用文献
1.保険医のための審査、指導、監査対策 2013年版、全国保険医団体連合会、2013年
2.カルテ記載を中心とした指導対策テキスト、全国保険医団体連合会、2013年
3.遂条解説 行政手続き法、総務庁行政管理局、1994年
MAIL : sotokawashika@ozzio.jp